- こす
- I
こす(助動)〔動詞「遣(オコ)す」と同源か〕動詞の連用形に付いて, 他に対してあつらえ望む意を表す。
「霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散り〈こす〉なゆめ/万葉 1437」「ゆく蛍雲のうへまでいぬべくは秋風吹くと雁に告げ〈こせ〉/伊勢 45」
〔命令形の「こせ」は平安時代になって見られる。 なお, 「うぐひすの待ちかてにせし梅の花散らずあり〈こそ〉思ふ児がため/万葉 845」などに見られる, 上代の終助詞「こそ」を助動詞「こす」の命令形とみる説もある〕IIこす【小簾】〔「おす」を誤読してできた語〕みす。 すだれ。III「玉すだれ~のま通し風の涼しさ/金槐(夏)」
こす【居す】ある場所・地位にいる。IV「栄耀門戸に余るのみならず, 執事の職に~・して/太平記 37」
こす【濾す・漉す】〔「越す」と同源〕液体などに混じったごみやかすを, 布・紙・フィルターなどで取り除く。「濁った水を布で~・す」
‖可能‖ こせるVこす【痼す】長い間病気する。 痼疾となる。VI「一片の痛恨深く~・して/不如帰(蘆花)」
こす【瞽す】目が見えなくなる。 盲目となる。VII「両目~・して物を視ること能はず/西国立志編(正直)」
こす【越す・超す】(1)山・川その他の障害物や境界線の上を通り過ぎてその向こう側へ行く。 《越》「峠を~・す」「箱根八里は馬でも~・すが~・すに~・されぬ大井川」〔「越える」に比べて, ある一点を突破することに主眼がある〕(2)ある基準・数値を上まわる。 こえる。「四万人を~・す大観衆」「三時間を~・す大演説」「五〇の坂を~・す」
(3)ある区切り目となる時や困難な時期を過ぎる。 《越》「この問題の解決は年を~・しそうだ」「ツバメは南の暖かい国で冬を~・す」(4)後ろから行って先を進んでいたものより前に出る。 位などが上位になる。 《越》「ライバル会社の先を~・して新型機種を発売する」「大将を人より~・して大臣になして/宇津保(楼上・下)」(5)(「…にこす」の形で)…よりも優れる。 …よりもよい。「給料は高いに~・したことはない」「これに~・す幸いはございません」
(6)引っ越しする。 ひっこす。 《越》「隣に~・して来た人」「転任で大阪へ~・すことになった」(7)(「おこしだ」「おこし下さる」などの形で)「行く」「来る」の尊敬表現。 いらっしゃる。 《越》「あら, どちらへお~・しですか」「皆様どうぞおそろいでお~・し下さい」〔本来「越ゆ」に対する他動詞であったが, 神の力などによって自分自身を越えさせる意から転じて, ほぼ「越える」と同じような意味で用いられるようになった〕‖可能‖ こせる︱慣用︱ 先(サキ)を~・峠を~・年を~・一山~VIIIこす【遣す】よこす。 おこす。IX「筑紫より来たる人にすだれがはを乞ふを, 今々とて~・さねば/兼澄集」
こす【錮す】一室にとじこめて, 外出などの自由を奪う。 禁錮する。X「獄丁の手に~・せられて/思出の記(蘆花)」
こす【鼓す】※一※ (動サ五)〔サ変動詞「鼓する」の五段化〕気分をふるいたたす。「勇を~・す」
※二※ (動サ変)⇒ こする
Japanese explanatory dictionaries. 2013.